国際税務

「海外に法人を作れば税金が下がる」は本当か ― 外国子会社合算税制(CFC税制)の基礎

2026年8月13日読了時間: 約11

「シンガポールなら法人税が低いらしい」「ドバイは所得税ゼロだと聞いた」。国際的に事業を展開されている経営者の方から、こうしたご相談をいただく機会が増えています。海外に法人を設立し、そこに利益を貯めれば日本の高い税負担を避けられるのではないか ― 発想としては自然なものです。

ところが、いざ設立の段になって顧問税理士から「それ、合算課税の対象になりますよ」と言われ、青ざめる方が少なくありません。日本には外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制、いわゆるCFC税制)という仕組みがあり、一定の条件に当てはまる海外子会社の所得は、たとえ現地で配当していなくても、日本の親会社や個人株主の所得に合算して課税されるからです。

この制度は「海外法人は一切ダメ」という話ではありません。実態のある事業をきちんと現地で行っていれば過度に恐れる必要はなく、逆に、実態のない「箱」だけの会社は容赦なく捕捉されます。今日は、海外法人設立を検討する前に必ず押さえておきたいCFC税制の全体像を、執筆時点(2026年8月)の情報で整理します。

そもそもCFC税制とは何か ― 「利益を海外に置いておく」を許さない仕組み

法人税の考え方の基本として、海外子会社が現地で稼いだ利益は、その子会社が日本の親会社に配当を出して初めて日本で課税されるのが原則です。裏を返せば、配当さえしなければ日本での課税を先送りできることになります。この性質を利用し、税率の低い国(あるいはほぼゼロの国)にペーパーカンパニーを作って利益を貯め込み、日本の課税を免れようとする行為が過去に横行しました。

そこで導入されたのがCFC税制です。制度の目的はシンプルで、財務省の説明を借りれば「実質的活動を伴わない外国子会社を利用した租税回避行為に対処する」ことにあります。具体的には、一定の外国子会社(外国関係会社)の所得を、配当の有無にかかわらず、日本の株主の所得に合算して課税します。「海外に置いておけば日本の税金はかからない」という発想そのものを封じる、というのがこの制度の本質です。

ここで大切なのは、CFC税制は脱税を取り締まる特別なペナルティではなく、通常の申告の中で適用される課税ルールだという点です。知らなかったでは済まされず、対象になっていれば法人税申告書の中で合算所得を計上する義務が生じます。まさに「守るべきルール」の代表格といえます。

CFC税制で注意すべきポイント

  • 現地で配当していなくても、子会社の所得が日本側で課税され得る(課税の繰延べが認められない)。
  • 対象は大企業に限らず、中小企業やオーナー個人が持つ海外法人も広く含まれる。
  • 「知らなかった」は通用せず、対象なら日本の申告に合算所得を反映する義務がある。
  • 現地で法人税を払っていても、その税率(租税負担割合)が低ければ合算の対象になり得る。

誰が課税されるのか ― 「外国関係会社」と株主の範囲

CFC税制の入口は、その海外法人が「外国関係会社」に当たるかどうかです。外国関係会社とは、ごく大まかにいえば、日本の居住者や内国法人などが合計で株式等の50%超を直接・間接に保有している、または実質的に支配している外国法人を指します。単独で50%超を持っている必要はなく、複数の日本側関係者を合算して判定される点、また持株比率だけでなく実質的な支配関係も見られる点に注意が必要です。

そのうえで、実際に合算課税を受ける(=自分の所得に上乗せされる)のは、その外国関係会社の株式等を直接・間接に10%以上保有する内国法人や居住者等です。つまり「50%超で会社が対象になるか」を判定し、「10%以上を持つ株主が課税される」という二段構えになっています。少数株主として10%未満しか持っていない場合は合算の対象外ですが、オーナー経営者がご自身や同族関係者で大半を保有しているようなケースでは、まず間違いなく射程に入ります。

法人が海外子会社を持つ場合だけでなく、個人(居住者)が直接オーナーとして海外法人を保有している場合も対象になる、という点は特に見落とされがちです。「会社ではなく自分個人で海外法人を持っているから関係ない」というのは誤解です。

課税対象者の判定で注意すべきポイント

  • 50%超の判定は、複数の日本側関係者の保有分を合算して行う。
  • 実質支配関係があれば、形式的な持株が50%以下でも外国関係会社になり得る。
  • 合算課税を受けるのは10%以上を保有する株主。オーナー経営者はほぼ該当する。
  • 法人だけでなく、個人が直接保有する海外法人も対象になる。

3つの区分と「租税負担割合」 ― どこまで合算されるか

外国関係会社に当たると分かったら、次はその中身によって課税の重さが変わります。制度は外国関係会社を大きく3つに区分し、それぞれ「租税負担割合(その会社が実際にどれだけ税負担しているかの割合)」の基準値と照らして、合算の要否を判定します。ここが制度の核心です。

区分 どんな会社か 合算の対象になる租税負担割合 合算の範囲
特定外国関係会社 ペーパーカンパニー、事実上のキャッシュボックス、ブラックリスト国所在の会社など 27%未満 会社の全所得を合算
対象外国関係会社 経済活動基準(後述)を1つでも満たさない会社 20%未満 会社の全所得を合算
部分対象外国関係会社 経済活動基準をすべて満たす会社 20%未満 受動的所得(配当・利子等)のみ部分合算

ポイントは、実態の乏しい会社ほど高い基準値(厳しい網)が適用されることです。ペーパーカンパニー等(特定外国関係会社)は、租税負担割合が27%以上なければ会社まるごと合算されます。日本の法人実効税率がおおむね30%前後であることを踏まえると、この27%という水準はかなり高く、多くの低税率国の会社が網にかかることが分かります。

一方、現地でしっかり事業をしている会社(部分対象外国関係会社)であれば、たとえ税率が低くても、合算されるのは配当・利子・使用料といった「受動的所得」の部分だけに絞られます。事業活動そのものから生じる利益(能動的所得)は合算されません。「実態があるかどうか」で扱いが天と地ほど変わる、というのがこの制度の設計思想です。

なお、この特定外国関係会社の基準値は、かつて30%でしたが、令和5年度税制改正により27%に引き下げられました。適用されるのは2024(令和6)年4月1日以後に開始する内国法人の事業年度からで、判定の基準は外国子会社側ではなく日本の親会社の事業年度である点に留意が必要です。制度は毎年のように見直されており、最新の基準値は必ず執筆時点以降の情報で確認してください。

租税負担割合の判定で注意すべきポイント

  • ペーパーカンパニー等は27%以上、それ以外は20%以上が合算回避のライン(執筆時点)。
  • 租税負担割合は法定税率ではなく、実際の税負担ベースで計算する。
  • 実態のない会社ほど高い基準値が適用され、網が厳しくなる。
  • 基準値は税制改正で変動する(30%→27%への引下げは令和6年4月以後開始事業年度から)。

明暗を分ける「経済活動基準」 ― 実態があれば救われる

ここまでで最も重要なキーワードが「経済活動基準」です。海外子会社がこの基準をすべて満たせば、ペーパーカンパニー扱い(会社単位の全所得合算)を免れ、部分合算にとどまります。逆に1つでも欠ければ「対象外国関係会社」として、税率が20%未満なら会社の全所得が合算されてしまいます。経済活動基準は、次の4つです。

基準 概要
事業基準 主たる事業が、株式の保有・知的財産の提供など受動的な特定事業でないこと
実体基準 本店所在地国に、事業に必要な事務所・店舗・工場などの固定施設を有すること
管理支配基準 本店所在地国において、自ら事業の管理・支配・運営を行っていること
所在地国基準/非関連者基準 業種に応じ、主に所在地国で事業を行っている(または主要取引が非関連者との間で行われている)こと

要するに「その国に、その会社が事業をするための実体(人・オフィス・意思決定)がきちんとあるか」を問うものです。名前だけ登記して私書箱に住所を置き、実際の意思決定は日本で行っている ― こうした会社は実体基準・管理支配基準を満たさず、ペーパーカンパニーと判定されます。

海外法人を検討する際、多くの方が「税率の低い国はどこか」に目を向けがちですが、CFC税制の観点で本当に問われるのは現地に本物の事業実体を築けるかです。現地に人を置き、オフィスを構え、現地で意思決定と事業運営を行う ― そこまでやって初めて、低税率のメリットを(部分合算の範囲で)享受できる可能性が出てきます。実体を伴わない設立は、コストだけかかって税務上のメリットが得られないばかりか、後日の否認リスクを抱え込むことになります。

経済活動基準で注意すべきポイント

  • 4基準は「すべて満たす」ことが必要で、1つでも欠ければ会社単位合算のリスク。
  • 実体基準・管理支配基準は「現地に人と意思決定があるか」が問われる最重要項目。
  • 主たる事業が株式保有・知財提供中心だと、事業基準で引っかかりやすい。
  • 基準充足を後から立証できるよう、契約・議事録・勤務実態などの記録を現地で残す。

今日から始める5つのステップ

海外法人設立を検討している、あるいは既に保有している場合、次の順序で自社の状況を点検してみてください。

  1. 保有割合を確認する ― 自分(および同族・関係者)が、その海外法人の株式等を直接・間接に合計で何%持っているかを整理する。50%超なら外国関係会社、10%以上なら合算課税の対象者になり得る。
  2. 租税負担割合を試算する ― 現地でその会社が実際に負担している税率を、法定税率ではなく実態ベースで概算する。20%(ペーパーの場合27%)を上回るかが第一の分岐点。
  3. 区分を見極める ― ペーパーカンパニー等に当たらないか、経済活動基準を4つとも満たせるかを、事業計画に照らして検討する。
  4. 実体づくりの計画を立てる ― 現地オフィス、駐在・現地採用の人員、意思決定を現地で行う体制など、実体基準・管理支配基準を満たすための具体策を設計する。
  5. 専門家に相談する ― 設立前の段階で、国際税務に詳しい税理士および現地の会計・法律専門家に、CFC税制・移転価格税制・PE(恒久的施設)認定リスクまで含めて総合的に確認する。

このうち最も費用対効果が高いのは、設立してしまう前の段階での相談です。設立後に「対象でした」と分かっても取り返しがつきにくく、逆に事前に設計できれば、合法的な範囲で無理のない体制を組める余地が広がります。

おわりに

外国子会社合算税制は、「海外法人=節税」という単純な図式が通用しないことを示す、国際税務の入口にして最大の関門です。制度の狙いはあくまで実態のない租税回避の防止であり、現地に本物の事業を築く経営者を罰するものではありません。大切なのは、ルールを正しく理解したうえで、実体を伴った形で海外展開を設計することです。

もっとも、本記事で触れられたのは制度の骨格にすぎません。実際には、外国関係会社の判定、租税負担割合の精緻な計算、経済活動基準の充足性、さらには移転価格税制やPE認定、外国子会社配当益金不算入制度との関係まで、論点は複雑に絡み合います。しかも制度は毎年のように改正され、進出先国の税制も刻々と変わります。海外法人設立や国際税務は、個々の事業内容・保有形態・進出先によって結論が大きく変わる分野であり、一般論だけで判断するのは危険です。

当事務所では、海外進出をお考えの経営者・個人の方に向けて、CFC税制をはじめとする国際税務のご相談を承っています。設立を決める前の段階でこそご相談いただく価値が大きい領域ですので、少しでも気になる点があれば、どうぞお気軽にお声がけください。

<参考サイト>

※本記事は執筆時点(2026年8月)の情報に基づく一般的な解説であり、個別の税務・法務判断ではありません。国内外の制度・税率・ビザ要件・手数料・為替は変動します。実行前に必ず税理士および現地の専門家にご確認ください。

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外国子会社合算税制CFC税制タックスヘイブン対策税制海外法人設立国際税務経済活動基準租税負担割合

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