国際税務

非居住者になっても、日本の税金は終わらない ― 海外移住後も課税される「国内源泉所得」の話

2026年8月11日読了時間: 約11

「無事に海外へ移住して、日本では非居住者になりました。これで日本の所得税や確定申告とは、もうお別れですよね?」

移住のご相談を最後まで伴走させていただいた方から、翌年になってこうお尋ねいただくことがあります。気持ちはとてもよく分かります。せっかく生活の拠点を海外に移したのですから、日本の税金からもすっきり解放されたい、と考えるのは自然なことです。

ところが実務では、そう単純にはいきません。日本にマンションを残して人に貸している、日本の会社の株を持っていて配当を受け取っている、役員として報酬が出ている、あるいは移住のタイミングで日本の不動産を売った――こうした事情がひとつでもあると、非居住者になった後も日本で税金がかかり続けることがあります。今日は、「非居住者になっても日本で課税される所得」、専門用語でいう国内源泉所得について整理します。海外移住を「やりっぱなし」にしないための、いわば後半戦のお話です。

非居住者が日本で払うのは「国内源泉所得」だけ

まず全体像を確認しましょう。日本の所得税では、個人を「居住者」と「非居住者」に分けています。日本に生活の本拠がある居住者は、原則として日本・海外を問わずすべての所得が日本の課税対象になります。これに対して、生活の本拠が国外にある非居住者が日本で課税されるのは、国内源泉所得、つまり「所得の源泉(発生原因)が日本国内にあるもの」に限られます。

言い換えると、海外で得た給与や事業の利益、現地の銀行預金の利子といった「国外で生まれた所得」は、非居住者であれば日本の課税対象から外れます。しかし、日本国内にある不動産や、日本の会社、日本での勤務など、日本に源泉があるものから生まれた所得は、たとえ受け取る本人が海外に住んでいても日本で課税される、というのが基本の考え方です。

ここを「非居住者になれば日本の税金はゼロ」と誤解してしまうと、申告漏れや源泉徴収漏れにつながります。非居住者になるということは、日本の課税がなくなることではなく、課税される所得の範囲が「国内源泉所得だけ」に絞られることだと理解しておくのが正確です。

課税範囲で注意すべきポイント

  • 非居住者でも「国内に源泉のある所得」は日本で課税される
  • 海外で得た給与・事業所得・現地利子などは原則として日本の課税対象外
  • 「非居住者=日本の税金ゼロ」ではなく「国内源泉所得だけに絞られる」と理解する

どんな所得が「国内源泉所得」になるのか

では、具体的にどのような所得が国内源泉所得にあたるのでしょうか。所得税法は国内源泉所得を細かく列挙していますが、海外移住された個人の方に関係しやすいものを中心に整理すると、次のようになります。あわせて、支払いの際に差し引かれる源泉徴収の税率(復興特別所得税を含む)も並べておきます。

主な国内源泉所得 イメージ 源泉徴収税率
国内不動産の賃貸料 日本のマンション・土地を貸した家賃 20.42%
国内不動産等の譲渡対価 日本の土地・建物を売った代金 10.21%
国内勤務に基づく給与・報酬 日本での勤務分の給与、役員報酬 20.42%
上場株式等の配当 日本の上場企業からの配当 15.315%
その他の配当 非上場の日本法人からの配当 20.42%
貸付金の利子 国内業務に係る貸付金の利子 20.42%
預貯金・公社債の利子 日本の銀行預金・国債の利子 15.315%
工業所有権・著作権の使用料 特許・著作権などの使用料 20.42%
公的年金等 日本から支払われる年金 20.42%

原則的な源泉徴収税率は20.42%(所得税20%と復興特別所得税0.42%の合計)で、利子や上場株式の配当など一部は15.315%、土地等の譲渡対価は10.21%と、所得の種類によって異なります。ここで大切なのは、非居住者への支払いでは、支払う側(借主・買主・会社など)が支払いの時点でこの税率で税金を天引きし、国に納める義務を負う、という点です。受け取る本人が海外にいても、日本国内で支払いが行われる場面では、この源泉徴収がまず入り口になります。

所得の種類で注意すべきポイント

  • 国内源泉所得は種類が細かく分かれ、源泉徴収税率もそれぞれ異なる
  • 原則20.42%だが、利子・上場株配当は15.315%、土地等の譲渡対価は10.21%
  • 源泉徴収は「支払う側」の義務であり、受け取る本人が海外にいても行われる

課税の方法は「源泉徴収で完結」と「確定申告が必要」の2種類

国内源泉所得があるとき、その課税がどう決着するかは、大きく2つのパターンに分かれます。ひとつは源泉徴収だけで課税関係が終わるもの(源泉分離課税)、もうひとつは確定申告をして精算する必要があるもの(申告納税)です。どちらになるかは、所得の種類と、日本国内に恒久的施設(PE。支店や事業所など事業活動の拠点)があるかどうかで決まります。

日本国内に恒久的施設を持たない個人の場合、利子や配当のように源泉徴収だけで課税が完結するものは、天引きされた時点で日本での手続きは終わり、あらためて確定申告をする必要はありません。一方で、国内不動産の賃貸による所得(不動産所得)や、国内不動産を売ったときの譲渡所得は、源泉徴収されて終わりではなく、原則として確定申告が必要です。家賃や売却代金から源泉徴収された税額は、いわば「前払い」であり、最終的には必要経費や取得費を差し引いた本来の所得に対する税額を確定申告で計算し、天引きされた分を精算(不足なら追加納付、払い過ぎなら還付)することになります。

この確定申告を海外にいながら行うのは現実的に難しいため、日本国内に納税管理人を定めておくのが実務の基本です。納税管理人とは、本人に代わって確定申告書の提出や納税、税務署からの書類の受け取りなどを日本国内で行う人で、親族や顧問税理士が就くことが多いです。移住してからではなく、日本を出る前に納税管理人を決めて届け出ておくと、その後の申告がぐっとスムーズになります。

課税方法で注意すべきポイント

  • 利子・配当などは源泉徴収だけで完結し、原則として確定申告は不要
  • 国内不動産の賃貸所得・譲渡所得は、源泉徴収されても別途確定申告が必要
  • 海外から申告するのは難しいため、出国前に納税管理人を定めておく

見落としやすい3つの場面

理屈だけでは分かりにくいので、非居住者になった後に実際につまずきやすい場面を3つ取り上げます。

一つ目は、日本のマンションを貸したままにしているケースです。移住後も日本の物件を賃貸に出して家賃を受け取っていると、それは国内不動産の賃貸料として国内源泉所得になります。借主が法人の場合などは、家賃の支払い時に20.42%が源泉徴収され、さらに本人は不動産所得として確定申告が必要です。「日本を離れたから日本の家賃は申告不要」ではない点に注意してください。

二つ目は、移住にあわせて日本の不動産を売却するケースです。非居住者が日本の土地や建物を売ると、実は買主の側に源泉徴収の義務が生じます。買主は売買代金の10.21%を差し引いて国に納め、残りを売主に支払う仕組みです。ただし例外があり、買主が個人で、その不動産を自己または親族の居住用に購入し、かつ譲渡対価が1億円以下である場合には、この源泉徴収は不要とされています。売る側の非居住者は、源泉徴収された税額を、後日の確定申告で譲渡所得の税額と精算することになります。

三つ目は、日本の会社から役員報酬や配当を受け取り続けているケースです。オーナー経営者が海外に移住しても日本法人の役員にとどまっている場合、その役員報酬のうち国内勤務に対応する部分は国内源泉所得となり、原則20.42%の源泉徴収の対象になります。また、日本法人からの配当も源泉徴収の対象です。「非居住者になれば会社からのお金には日本の税金がかからない」と考えていると、想定と違う手取りになりかねません。

3つの場面で注意すべきポイント

  • 日本の物件を貸したままなら、源泉徴収に加えて不動産所得の確定申告が必要
  • 非居住者が日本の不動産を売ると、原則として買主が10.21%を源泉徴収する(1億円以下・居住用など一定の場合は不要)
  • 日本法人からの役員報酬・配当は、非居住者でも源泉徴収の対象になり得る

租税条約で税率が下がることもある

ここまでは日本の国内法(所得税法)のお話でしたが、実務ではもうひとつ、租税条約という視点が欠かせません。日本は多くの国・地域と租税条約を結んでおり、二重課税を防いだり、源泉徴収の税率を軽減・免除したりする定めが置かれています。

たとえば配当・利子・使用料などについては、租税条約で国内法より低い限度税率が定められていることがあります。移住先の国と日本との条約にそうした定めがある場合、国内法の税率(たとえば配当20.42%)ではなく、条約上の軽減税率が適用され、税負担が下がることがあります。ただし、これは自動的に適用されるわけではなく、原則として支払いを受ける前に「租税条約に関する届出書」を、支払者を通じて税務署に提出しておく必要があります。手続きを忘れると、いったん国内法の税率で源泉徴収され、後から還付を受ける手間が生じます。

どの国の条約が、どの所得に、どこまでの軽減を認めているかは国ごとに異なりますし、条約の内容は改定されることもあります。移住先が決まったら、その国と日本の租税条約でご自身の受け取る所得がどう扱われるかを、早めに確認しておくことをおすすめします。

租税条約で注意すべきポイント

  • 配当・利子・使用料などは、租税条約で国内法より低い限度税率が使えることがある
  • 軽減を受けるには、原則として事前に「租税条約に関する届出書」の提出が必要
  • 条約の内容は国ごとに異なり改定もあるため、移住先が決まったら個別に確認する

今日から始める、非居住者の日本課税チェック5ステップ

海外移住の後半戦を落ち着いて進めるために、次の順序で確認しておくと安心です。

  1. 移住後も日本に残る収入源(賃貸物件・株式・日本法人からの報酬や配当・年金など)をすべて書き出す
  2. それぞれが国内源泉所得にあたるか、あたる場合の源泉徴収税率はいくらかを整理する
  3. 源泉徴収だけで完結するものと、確定申告が必要なもの(不動産所得・譲渡所得など)を仕分ける
  4. 確定申告が必要なものについて、納税管理人を誰にするか・申告のスケジュールを決める
  5. 移住先の国と日本との租税条約を確認し、軽減税率や届出書の要否をチェックする

この5つを移住の前後で一度きちんと整理しておくと、「知らないうちに源泉徴収漏れ・申告漏れになっていた」という事態をかなり防げます。

おわりに

海外移住は「日本を出たら完了」ではなく、その後に残る日本国内の収入について、どの所得にどの方法で課税され、どの手続きが必要かを設計しておくところまでが本当の準備です。国内源泉所得の範囲、源泉徴収の要否、確定申告と納税管理人、そして租税条約――どれも、お持ちの資産や日本に残す事業、移住先の国によって結論が変わります。個別の事情によって最適な進め方は大きく異なりますので、判断に迷う場面が出てきたら、早めに税理士へご相談いただくのが安心です。当事務所でも、移住前の設計から移住後の申告体制づくりまで一緒に整理するお手伝いをしていますので、気になる点があればお気軽にお声がけください。

<参考サイト>

※本記事は執筆時点(2026年8月)の情報に基づく一般的な解説であり、個別の税務・法務判断ではありません。国内外の制度・税率・ビザ要件・手数料・為替は変動します。実行前に必ず税理士および現地の専門家にご確認ください。

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非居住者国内源泉所得源泉徴収海外移住不動産所得納税管理人租税条約

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