法人税

設立したら最初に決める「役員報酬」―― いくらに、いつまでに?

2026年8月7日読了時間: 約11

法人を設立して最初にぶつかる悩みのひとつが、「自分(社長)の給料をいくらにするか」です。

個人事業のときは、稼いだお金がそのまま自分のものでした。ところが法人では、会社のお金と社長個人のお金は別物になります。社長が受け取る給料=役員報酬は、会社から見れば「経費」ですが、この経費、金額さえ決めれば自由に認められるわけではありません。

役員報酬には、「決め方」と「支給のしかた」に細かいルールがあり、これを外すと「払ったのに経費にならない(損金不算入)」という、いちばん避けたい事態が起きます。しかも役員報酬は、法人税だけでなく、社長個人の所得税・住民税、そして社会保険料にも同時に効いてくる、いわば「4つの税負担の分岐点」です。

今回は、新設法人が設立初年度に必ず押さえておきたい役員報酬のルールを、「定期同額給与」「事前確定届出給与」「社会保険とのバランス」の3つに分けて整理します。

なぜ役員報酬にはルールがあるのか

そもそも、なぜ従業員の給料と違って役員報酬にはうるさい決まりがあるのでしょうか。

理由はシンプルで、役員報酬は「利益操作」に使えてしまうからです。決算が近づいて利益が出そうなときに社長が自分の給料を後から大きく増やせば、その分だけ会社の利益=法人税を自由に減らせてしまいます。これを防ぐため、税法は「役員報酬を経費にしたいなら、あらかじめ決めたルールどおりに払ってください」という枠をはめています。

法人税法上、役員に対する給与で損金(経費)にできるのは、原則として次の3つの型に当てはまるものだけです。

内容 主な使いどころ
① 定期同額給与 毎月同じ額を払う、いわば「月給」 ほぼすべての中小企業の基本
② 事前確定届出給与 事前に届け出た額を、届け出た日に払う「役員賞与」 社会保険料の最適化、賞与の支給
③ 業績連動給与 利益等の指標に連動して払う給与 上場企業等が中心。中小はほぼ使わない

中小企業で実際に使うのは①と②です。③は同族会社では原則使えないため、本記事では①と②を中心に見ていきます。

① 定期同額給与 ―― 「毎月同じ額」が大原則

基本のルール

定期同額給与とは、その名のとおり支給時期が1か月以下の一定の間隔で、各回の支給額が同額である給与です。要は「毎月○日に○万円」という普通の月給の形にしておけば、その全額を損金にできます。

問題は、この金額を期の途中で自由に変えられないという点です。

変更できるのは「期首から3か月以内」

役員報酬の額を改定して、なお定期同額給与として認められるのは、原則として事業年度開始の日から3か月を経過する日までに行う改定です(通常改定)。3月決算の会社であれば、4月・5月・6月のうちに新しい報酬額を決め、その後は次の改定時期まで同額を維持する、という流れになります。

新設法人の場合は、事業年度の開始=設立ですから、設立してからおおむね3か月以内に最初の役員報酬額を決めておくのが基本です。ここを逃すと、初年度は原則として金額を動かせません。

期の途中で増やす・減らすとどうなる

もし期の途中で「業績がよいから」と役員報酬を増額すると、増やした部分だけが損金にならない扱いになります。逆に減額した場合は、減額後の低い金額を「本来の定期同額」とみなし、それを超えて払っていた期首からの上乗せ分が損金不算入となります。

つまり、安易に途中で動かすと、増やしても減らしても会社側で損をする設計になっているわけです。

例外的に認められる改定(臨時改定・業績悪化)

3か月ルールの外でも、次のような特別な事情があれば改定が認められます。

  • 臨時改定事由:役員の職制上の地位が変わった、職務の内容に重大な変更があった、といった場合(例:平取締役が社長に就任)
  • 業績悪化改定事由:経営状況が著しく悪化し、やむを得ず減額する場合

ただし業績悪化改定は「対象は減額のみ」で、しかも「一時的な資金繰り」や「なんとなく厳しいから」といった理由では認められません。取引先の倒産や売上の大幅減など、客観的に説明できる事情が求められます。

定期同額給与で注意すべきポイント

  • 改定のタイミングは期首から3か月以内。決算月と、その3か月後の期限をカレンダーに入れておく
  • 一度決めたら翌期の改定時期まで同額が原則。「ボーナス月だけ多め」はできない(それをやるのが②)
  • 変更は必ず株主総会(または取締役会)の議事録を残す。口頭で決めただけでは説明がつかない
  • 社会保険の定時決定(算定基礎届)とも連動するため、改定は社会保険の手続きとセットで考える

② 事前確定届出給与 ―― 役員に「賞与」を出すための制度

事前に届け出れば役員賞与も経費になる

毎月同額しか経費にできないなら、役員に賞与(ボーナス)は出せないのか――そこで使うのが事前確定届出給与です。

「いつ・誰に・いくら払うか」を事前に税務署へ届け出て、その届出どおりに支給すれば、役員賞与も損金にできる、という制度です。

届出の期限が命

この制度は、届出の期限を1日でも過ぎると使えません。提出期限は、次のいずれか早い日です。

  • 株主総会等で役員給与を決議した日から1か月を経過する日
  • 事業年度開始の日から4か月を経過する日

そして新設法人の場合は、設立の日から2か月を経過する日が期限です。設立直後は登記やら口座開設やらで慌ただしいものですが、この2か月の期限はうっかりすると本当に過ぎてしまうので要注意です。

「1円でも・1日でもズレたら全額アウト」

事前確定届出給与のいちばん厳しいところは、届け出た金額・時期と実際の支給が少しでも違うと、支給額の全額が損金不算入になる点です。

たとえば「12月10日に50万円」と届け出たのに、実際は業績がよくて70万円払った――この場合、増やした20万円だけでなく、70万円まるごと経費として認められません。逆に「業績が悪いから今回は払うのをやめよう」と支給を見送った場合も、原則としてその回は損金にできません。

「あくまで届出どおりに、機械的に払う」。これが事前確定届出給与の鉄則です。

社会保険料の観点で使われることも

事前確定届出給与は、法人税の話だけでなく、社会保険料の最適化の文脈でもよく登場します。

社会保険料は、毎月の給与(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)それぞれに上限のかかり方が異なります。年間の役員報酬総額が同じでも、毎月の月給を抑えて賞与部分を厚くする設計にすると、賞与にかかる社会保険料の上限の関係で、トータルの社会保険料が下がるケースがあります。

ただし、これはやりすぎると税務・社会保険の両面で否認リスクがあり、また将来の年金額(厚生年金の給付)にも影響します。目先の保険料だけで判断せず、専門家と設計するのが安全な領域です。

事前確定届出給与で注意すべきポイント

  • 新設法人は設立から2か月が届出期限。設立初年度でいちばん見落とされやすい
  • 届出どおりに払うのが絶対条件。金額も支給日も1つでもズレると全額否認
  • 「業績を見てから金額を決めたい」という使い方は、この制度の趣旨と相性が悪い
  • 社会保険料の最適化は、年金給付や役員貸付など他への影響も含めて総合判断を

③ 役員報酬は「4つの負担」のバランスで決める

役員報酬を「いくらにするか」は、実は会社と社長個人、どちらの財布で税金・保険料を負担するかというバランスの問題です。

役員報酬を上げると――

  • 会社の利益が減るので、法人税は下がる
  • 一方で社長個人の所得税・住民税は上がる(累進課税なので、上げるほど税率も上がる)
  • 会社・個人それぞれで負担する社会保険料も上がる

逆に役員報酬を下げれば、法人に利益が残り法人税がかかります。つまり「法人税」「所得税・住民税」「社会保険料(労使)」の合計が最も小さくなる着地点を探す、というのが役員報酬設計の考え方です。

一般論として、利益が小さいうちは役員報酬を低めにして法人に軽い税負担で利益を残し、利益が育ってきたら役員報酬を上げて所得を分散する、という流れになりますが、最適な金額は所得水準・家族構成・社会保険の加入状況によって大きく変わります。「いくらがベスト」という万能の正解はありません。

バランスを考えるうえで注意すべきポイント

  • 法人税だけを見て報酬を下げすぎると、社長個人の生活資金や住宅ローン審査に響くことがある
  • 逆に報酬を上げすぎると、高い所得税率と社会保険料で手取りが伸び悩む「働き損」に近い状態になる
  • 配偶者や親族を役員・従業員にして所得を分散する方法もあるが、実態のない支給は否認対象。実際の職務内容が必要
  • 一度決めた月額は原則1年間固定される。来期の利益見込みまで踏まえて金額を決めるのが理想

④ 令和8年度税制改正で法人に関係しそうな点

役員報酬そのものの大きな改正は予定されていませんが、中小企業の法人税に関わる論点として、令和8年度税制改正では次のような見直しが議論されています。

  • 賃上げ促進税制:大企業向けの措置は縮小・廃止の方向である一方、中小企業向けの措置は維持・拡充される見通しで、給与を増やした中小企業の税負担軽減は今後も使える見込みです
  • 少額減価償却資産の特例など、中小企業向けの各種特例についても、適用期限の延長や見直しが取り上げられています

いずれも金額や適用要件の詳細は今後の公表内容で確定します。具体的な数字を前提に判断する場合は、国税庁・財務省の最新情報をご確認ください

設立初年度のスケジュール ―― いつまでに何をするか

新設法人が役員報酬まわりでやるべきことを、時系列で並べると次のようになります。

  1. 設立後すぐ:想定利益をざっくり試算し、月額の役員報酬を仮決めする
  2. 設立から2か月以内:役員賞与(事前確定届出給与)を出すなら、税務署へ届出書を提出する
  3. 設立から3か月以内:株主総会で役員報酬額を正式に決議し、議事録を残す。この額で毎月同額支給を開始する
  4. その後は毎月:決めた額を淡々と同額支給。安易に途中で変えない

特に②の「設立2か月」と③の「設立3か月」は、初年度に一度きりしか来ないうえ、過ぎてしまうと取り返しがつきません。設立日から逆算して、この2つの期限を最初にカレンダーへ入れてしまうのがいちばん確実です。

おわりに

役員報酬は、「いくらにするか」という金額の話に目が行きがちですが、実務でつまずくのはむしろ**「決め方」と「期限」**です。定期同額給与の3か月ルール、事前確定届出給与の届出期限――ここを外すと、せっかく払ったお金が経費にならず、余計な法人税を払うことになってしまいます。

そして役員報酬は、法人税・所得税・住民税・社会保険料という4つの負担が交差する場所です。どれか1つだけを見て決めると、別のところで負担が膨らむことも少なくありません。設立初年度に一度、全体のバランスを踏まえて設計しておくことが、その後何年もの税負担に効いてきます。

当事務所では、法人設立時の役員報酬の設計から、事前確定届出給与の届出、社会保険との最適なバランスの検討まで対応しております。「そろそろ役員報酬を見直したい」「来期の金額をどう決めればよいか」といったご相談も歓迎ですので、お気軽にお問い合わせください。


<参考サイト>

※本記事は執筆時点(2026年8月)の情報に基づいています。制度の詳細および令和8年度税制改正の内容は、最新の法令および国税庁・財務省の公表内容をご確認ください。

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